自家製醸造アルコールへの挑戦

醸造アルコールとは?

日本酒の2つの系統、純米系とアル添系

日本酒は、使用する原材料によって「純米系」・「アルコール添加系(アル添系)」の二つの系統に分けることができます。

「純米系(純米大吟醸・純米吟醸・特別純米・純米酒)」の原材料は米(蒸米と麹米)と水のみ。「アル添系(大吟醸・吟醸・特別本醸造・本醸造)」も、米と水を原材料として醗酵させるのは同じですが、モロミの最終段階で、“醸造アルコール”を添加します。

なお、これら先述した8種類の日本酒は、3等以上に格付けされた原料米を使用のうえ、麹の使用割合が15%以上であること。さらに、この内4種のアル添系は添加するアルコール量を使用白米重量の10%以下に限るという特定の製法の定めを要件としているため、「特定名称酒」といいます。

これらの製法基準に満たない「それ以外の日本酒」(ラベルに「清酒」としか表示されておらず、一般的に普通酒と呼ばれるもの)は、ここでいう純米系・アル添系のどちらの系統の商品もありますが、そのほとんどはアル添系の造り方をしています。

日本酒の区分

8種類の特定名称酒の場合は全品目の要件として3等以上に格付けされた原料米を使用のうえ、麹の使用割合が15%以上であること。さらに特定名称アル添系の要件として、添加するアルコールは使用白米重量の10%以下に限る。その他の酒(いわゆる普通酒)は、この要件に満たない。

日本酒の区分表

アル添系日本酒へのネガティブイメージ

日本酒の区分表

平成27年の日本酒出荷に占める「特定名称純米系」の構成比は19%に対し、それ以外の日本酒は81%を占めます(醸界タイムス2016年8月5日号より)。しかしその構成比とは反対に、近年「純米系」の人気は高まり、「アル添系」は需要減少傾向が続いています。最近お客様とお話をさせていただく際に、味わいのお好みをお伺いする以前に、純米系日本酒への好感とは反対に、アル添系日本酒へのネガティブなイメージを伺うことが増えてきました。

なぜアル添系日本酒は嫌われ始めたのでしょうか。最も大きな理由は、醸造アルコールって一体なに?しかも、なんで入れなきゃいけないの?という根本的なところを我々酒造メーカーが十分な説明をせずにいたからだと思います。

高級酒の代名詞であるシャンパンは、製造工程で糖類とリキュールを添加します。またシェリー・ポート・マデイラ・マルサラなど、スペインをはじめとした南欧には、アルコールを添加することが製造特徴であるワインが大航海時代からあり、現在も世界中で愛されています。これらは何のために添加をするのか、ちゃんと説明を行ってきたからお客様にご理解とご支持を得られたのだと思います。

日本酒の原材料として使われる「醸造アルコール」は、最終製品として酒屋に並んでいないため耳馴染みは無いと思いますが、度数を36度未満にした場合は「甲類焼酎」として並び、またチューハイの原材料ですから実は広く飲まれています。

アル添の効能には、「品質の向上」と「製造コストの削減」の二つの理由がありますが、戦後の日本酒は、「製造コストの削減」を第一の目的として使ってきました。さらにアル添酒の大部分は、ラベルをご覧いただければわかりますが、醸造アルコールだけではなく、糖類・酸味料・調味料なども添加した増醸酒で、現在でも2リットルパック1000円を下回る経済酒の多くはこうした製法でつくられています。“アル添酒=製造コストを削減してつくる安酒”という認識は、消費者サイドより製造サイドにこそあり、それゆえアル添について我々酒造メーカー側が積極的に話をしてきませんでした。それではネガティブイメージがついてしまったのも当然ですよね 。では醸造アルコールについて、なぜ添加するのかについて、そして日本酒のアル添史をご紹介してまいりましょう。

醸造アルコールはサトウキビ、トウモロコシなど、農作物が原材料

醸造アルコールとは、農作物を原材料として醗酵によりつくられたアルコールを、度数45%を超えるまで蒸留した食用エタノールです。チューハイの主な原材料として使われ 、また水を加えて度数を36度未満にした場合は「甲類焼酎」として販売されます。

醸造アルコールの原材料は廃糖蜜(※解説1)など含糖質物や、トウモロコシ・米などでんぷん質物。これらの原材料を、まずは日本酒と同じように醗酵させて初期アルコールをつくり、その後、蒸留機で蒸留して高濃度のアルコールにします。つまり焼酎や、ラム・ジン・ウオッカなどのスピリッツと全く同じですが、アルコール度数は45度を超えるように規定されています。(甲類焼酎は連続式蒸留機で蒸留し36度未満、乙類焼酎は単式蒸留機で蒸留し45度以下という規定。スピリッツにはアルコール度数規定はない。)

醸造アルコールは、使用する蒸留機の種類に限らず度数45度を超えることが規定されていますが、実際の製品は95度程度の超高濃度アルコールになるまで蒸留されています。

【解説1】廃糖蜜:英語名ではモラセス。漢字のイメージが良くない事から食品業界では単に糖蜜と呼ばれる。醸造アルコールの原材料としては最もポピュラーなもの。サトウキビから粗糖を精製したあとの副産物としてできる粘性のある液体で、いわゆるサトウキビの搾りかす。うま味調味料の製造、パンのイースト菌製造、ベーグルの原材料などにも使われる。近年、カクテルのモヒートで人気の出た「ラム酒」はこの廃糖蜜を原材料として造られる。

粗留は海外蒸留酒メーカー、製造は国内大手アルコールメーカー

こうしたピュアアルコールを造るには莫大な設備投資が必要となり、国内ではキリンビールグループや宝酒造グループなど、幾つかの大手アルコールメーカーが製造しています。かつては国産農産物を使い、醗酵の段階から造っていた時代もありましたが、現在は主にブラジルなど砂糖生産国の蒸留酒メーカーが廃糖蜜を使って醗酵・蒸留のうえ粗製のアルコールをつくり、これを日本国内のアルコールメーカーが原料として輸入し、改めて蒸留をしてピュアアルコール製品にします。全国の酒造会社は、これらアルコールメーカーから醸造アルコールを購入し、アル添系日本酒の原材料として使います。酒造会社に運ばれた度数95%の醸造アルコールは、消防法の規定により即座に水を加えて度数を60%未満にする必要がありますが、実際に使用する際の度数はさらに低く、一般的には30%ぐらいまでアルコール度数を下げてから添加します。

食品にも使われている、醸造アルコール

このアルコールは、日本酒以外にも食酢の原材料として、また味噌・醤油をはじめ、麺類・餃子・かまぼこ・漬物・ソーセージ・カステラや饅頭あんの菓子など、様々な食品の保存性を高めるために広く使われています。(※解説2)

なお、醸造アルコールを、合成アルコール(石油などからつくられるエチレンガスを原料として、化学合成によってつくられるアルコール)と同じと勘違いされることがありますが、合成アルコールは主に化粧品や洗剤などの原料に使われ 、食品には使われず、醸造アルコールとは全く異なります。

【解説2】酒類に使うアルコールは財務省管轄、それ以外の食品や香料などに使用するアルコールは経済産業省の管轄となり、この場合は醸造アルコールとはいわず、ラベル表示には「アルコール」や「酒精」と書かれることが多い。

なぜ醸造アルコールを日本酒に添加する?

添加の理由1 酒品質の向上

酒品質の向上

醸造アルコールの添加には ■酒質が安定する(腐造防止・熟成が緩やかになり劣化しにくい) ■味わいが軽くクリアに、飲みやすくなる ■大吟醸酒などの特長である芳香を、より酒に残すことが出来るなど、品質の向上を狙った効能があります。大吟醸・吟醸・特別本醸造・本醸造のアル添系特定名称酒は、これら品質効能を求めて、モロミに使用白米重量10%以内のアルコール添加をしています。

こうしたアルコール添加の効能を図った記録は、江戸時代にまで遡ります。1600年代に書かれた「童蒙酒造記」という酒造技術書には、後世“柱焼酎仕込”と呼ばれる「酒に焼酎を足すことで味わいがしまり、また腐りにくくなる」という記述があり、すでにこの時代には酒にアルコールを添加する効能が発見されていたようです。現在の衛生環境と醗酵技術からは考えにくい事ですが、江戸時代はもとより、戦後すぐの昭和23年(1948)にも全国の酒蔵で腐造の大発生がありました。しかし、その数年前に開発された醸造アルコールの添加技術によって、多くの酒を救うことができたのです。

味わいが「軽くクリアに」に関しては、同じ酒蔵で造られた同じぐらいの価格帯の「純米酒」と「本醸造」を飲み比べてみますと、その効能がご理解いただけるかと思います。(※解説3)純米酒の幅のある濃醇な味わいに比べ 、本醸造は軽くクリアな飲み心地をお感じいただけると思います。たとえば焼肉屋さんでカルビを注文する時に「タレですか?塩ですか?」と聞かれたりしますが、純米系とアル添系ではそうした風合いの違いがあると思います。

また、現代になって分かったアル添の大きな効能に、フルーツや花の香りに例えられる大吟醸酒などの素晴らしい芳香を、よりお酒に残すことが出来るという事があります。繊細な手仕事と時間のかかる低温発酵の中で酵母が生み出した芳香は、水には溶け込みませんが、アルコールには溶け込むという特性があります。それゆえ、モロミにアルコールを添加することで、本来酒粕についていってしまった芳香を、より酒自体に残すことができるのです。大吟醸はこの効果を大いに利用してつくられます。

【解説3】「伝心」ならば、“純米酒の稲本醸造の土”、「一本義」ならば、“一本義 純米酒と赤の一本義 上撰本醸造”の味わいを比較していただきますと、純米酒と本醸造の方向性の違いをお分かりいただけるかと思います。

添加の理由2 製造コストの削減

輸入米に対して778%の関税を(2016年現在)かけなければ保護できない日本国産米。世界で最も高価な国産米を原材料にして、綿密な醗酵により造られる日本酒と、多岐にわたる安価な輸入原材料の選択から蒸留して造られる「醸造アルコール」では、その製造コストには雲泥の差があります。

ピュアアルコールである醸造アルコールを日本酒のモロミに加えることで、モロミを搾って出来た原酒のアルコール度数は上がります。醸造アルコールを入れた分だけ度数も製成数量も増えますから、増量目的でたくさん入れれば製造コストが削減できます。

経済酒などリーズナブルな商品を造る場合も、先に挙げた■酒質が安定する■味わいが軽くクリアに、という狙いももちろんありますが、それ以上に価格の経済性を主たるアルコール添加の目的とするため、使用白米重量の10%を超えてアルコール添加をします。

食糧不足から生まれた大量アル添の日本酒

増醸酒

国策として開発された大量アル添と増醸酒

江戸時代初期の酒造技術書にもあるように、我々日本人はかなり古くから、蒸留してつくったアルコールを酒に添加することで酒の品質を高め、香味への好影響をもたらすことを知っていました。しかしこの70年にわたり日本酒のアル添技術は、質的向上よりも経済効率をメインとして活用されてきました。

酒も米も貴重品どころではなく、戦略物資であった第二次世界大戦中の昭和17年。もとは製造コストの削減というより、米が無い時代に使用する原料米を削減しつつも、酒の製成数量を増やすために、醸造アルコールの大量添加技術が国策として開発されました。

戦後の食糧事情はさらにひっ迫し、なお一層の醸造アルコールによる増量が必要になりました。しかし、酒に醸造アルコールを添加しすぎると、お米から生まれた豊かな酒の味わいも薄まるため、酒はただ薄辛く味わいの乏しいものになってしまいます。そこで次に開発された技術が、モロミに大量の醸造アルコールと共に水あめ等の糖類や、うま味調味料、酸味料などを加えることで味わいを補強する増醸製法でした。こうして確立された増醸技術は、当時の酒税法規定最大限まで増量をした場合に、元の米の量から想定される量の3倍のお酒を造ることが出来たため、「三倍増醸清酒(通称・三増酒)」と呼ばれました。米不足の時代に酒の供給を賄うために生み出された増醸製法は、酒税収入の観点からも国家に奨励されました。

余談

戦後ドラマなどに、粗悪な酒を飲んで失明したりするシーンがありますが、あれはガソリン代わりに使われたエタノール(酒税がかかっていないため酒より廉価、それゆえ飲用させないように、わざと健康に影響を及ぼすメチルアルコールを添加している)を闇で密造蒸留して流通させたものです。メチルアルコールとエチルアルコールの沸点の差を利用して、飲用できるエチルアルコールだけを取り出すつもりだったのでしょうが、上手に処理できず、飲用者の多くに健康被害を出しました。酒造会社はこうしたものを製造していませんし、また醸造アルコールや三増酒製法とは全く違う話です。

日本酒需要の長期低迷の始まり

戦後30年近くが経過した昭和48年(1973)、日本酒は有史以来の出荷ピークを迎え、その後現在まで続く長期低迷時代に入ります。その低迷理由として、食の多様化、冷蔵庫の普及によるビール需要の拡大、外国からの新たなるアルコール飲料の流通、日本的文化を背景とした飲酒シーンの減少などがいわれます。しかし、社会背景や競合酒類の出現よりも、米余りの時代になっても増醸酒を中心に据えたままの、その日本酒の味わい自体に魅力を感じていただけなくなっていったことが、長期低迷の根本原因だったのであろうと考えられます。

日本酒を最大限増醸した三増酒は、米から醗酵して出来たアルコールが全体の33%で残り67%は蒸留酒と糖類や調味料などの添加由来(※解説4)。こうした三増酒全盛時代に飲酒年齢を迎えた若者たち(今ではおじさんたち)にとって、日本酒といえば「ひどい目にあった苦い思い出の酒」という話をよく聞きます。社会人となった洗礼として上司や先輩にたくさん飲まされたこともあったのでしょうが、味わいもあまり好んでいただけなかったのかもしれません。

【解説4】イメージがしづらいでしょうから、(実際の増醸製法は醗酵中のモロミに添加するのでちょっと違いますが)ご家庭でこんなことをしてみたと想像してみてください。日本酒が高価なので、今日はカップ酒を1本と安い甲類焼酎のボトルを買い、カップ酒を少しコップに移しかえ、そこに甲類焼酎をたっぷり足してみた。しかし味わいに乏しく、おいしくないのでシロップや梅干しを入れて飲むことにした…という具合です。

日本酒需要の長期低迷の始まり

この当時から、業界では様々な意見があり、メーカーはそれぞれの立場で考えました。

「増醸酒を中心に据えているから、日本酒の需要はどんどん減るのではないのか。数ある選択の時代に飲酒を始めた若者たちが、こうした日本酒をわざわざ選んで将来飲み続けるだろうか。売値が高くなっても、質的魅力のある商品を造るべきではないか」。

「需要が下がっても日本酒需要のほとんどが増醸酒。これと同じ原価で経済酒を造る方法がない。また価格の話だけではなく、『増醸酒造りをやめるので価格は高くなりますが、味わいが良くなります』というのは、日常飲み慣れた味への需要を無視した、製造者のエゴではないのか?」。

糖類や酸味料を使用する増醸酒造りをやめるもの。日常晩酌用のリーズナブル需要から離れ 、吟醸酒などの高級酒に注力するもの。アル添もやめて純米系に注力するものなど、色々な考えのもと増醸酒造り以外に活路を求めるメーカーが次第に出てきました。一本義はそうした中で、昭和の終わりを境に、糖類や酸味料を原材料に使用した増醸酒の製造をやめました。

平成18年まで続いた、日本酒の三増酒

しかし大勢としては、日本酒業界は戦後から脱却できないまま増醸酒を主軸として過ごしてきました。リーズナブルな経済酒には、その価格で製造しお届けするという大きな経済的価値があります。しかし、現在ではピーク時の3分の1にまで日本酒需要が失速してしまったという事実は、醸造アルコールがメインのお酒を造るなら、素直にチューハイをつくった方がもっと安く製造できるし、そもそもチューハイなら日本酒風味よりレモン風味などの方が好まれる、ということだったのかもしれません。そして、政治家・役人・製造者の長らくの議論の末、日本酒なのに米由来のアルコールよりその他のアルコールが多いというのは、やっぱり理屈に合わないという結論に至り、平成18年(2006)の酒税法改正で三増酒は日本酒の製法として廃止され 、日本酒への醸造アルコールや糖類・酸味料など添加物総量は、原材料として使用する白米重量の半分を超えない事が規定されました。

南欧のアル添酒と日本酒の比較

スペイン・ポルトガル・イタリアなどの南欧では、シェリー、ポート、マデイラ、マルサラなど、アルコール添加の酒は古くから存在していました。大航海時代以降、赤道を越えても耐えられる保存性に優れたワインとして船に好んで積まれたのは、これらアルコール添加をしたタイプのお酒でした。南欧におけるアルコール添加の目的は、アルコール度数を高めて酒の保存性を高めることと、醗酵の途中で高濃度のアルコールを加えることによって酵母の働きを止めることができるため、どの醗酵段階で添加するかによって、甘口・中甘・中辛・辛口などのバラエティを出すこと、などがあります。シェリーは辛口が有名ですが、ポートやマデイラは醗酵中のモロミに甘さが残る段階でアルコールを加えて醗酵を停止させることで、独特の甘みと風合いを酒に残すことを大きな目的としたものがよく知られています。添加するアルコールは、シェリーはワインを蒸留して95度にしたスピリッツと白ワインを半分に混ぜたもの、ポートはワインを蒸留して70度後半にしたスピリッツ、マルサラもブドウ由来の蒸留アルコールを使っているそうです。マデイラは1974年まではサトウキビ由来のアルコールを使っていましたが、現在はブドウ由来の95度スピリッツを使います。

日本酒のアルコール添加との大きな違いは、①増量を主眼としているわけではなく、アルコール添加をすること自体がその製法の秘訣であること ②現在では、マデイラを含め、その酒の主原材料と同じ「ブドウ」由来のアルコールを使うことを条件としていることの2点があるといえます。もちろん日本酒でも「米由来」の醸造アルコールを使うメーカーもありますが、一般的にはほとんどがサトウキビ(廃糖蜜)由来の醸造アルコールを使っています。醸造アルコールはピュアアルコールですから、味や香りがあるとしたらそれはエタノールという物質のものであり、そこに大元の原料特性が残っていることは考えにくいですが、南欧のアル添酒は全ての原材料が同じ「ブドウ」から生まれた飲料というところにも、こだわりがあるといえると思います。

一本義の自家製醸造アルコール

伝心 土のアル添を自家製造にする目的

自家製造にする目的

2015年12月、日本酒のブランド価値向上や輸出促進の観点から、国レベルの地理的表示として「日本酒」が指定されました。日本の国内で、日本国産の米を原材料として醸造した清酒のみが「日本酒」と名乗ることができ、たとえ国内で醸造しても外国産の米を使った場合や、日本産の米を使っても海外で造られた清酒は「日本酒」と名乗ることはできません。それは、「シャンパン」はフランスのシャンパーニュ地方で、規定の法律に則って造られたものでなければ「シャンパン」とは呼べず、その他の土地や国で造られたものが「スパークリングワイン」と呼ばれることと同様の話です。

その話と、アルコールの添加にどうした関係があるのかって?せっかく日本の米を使って、日本で醸造された清酒だけが日本酒と呼べるようになったのですから、その日本酒のうち現在80%を占めるアル添酒とはどういったものであるのか、日本酒業界はそれぞれのメーカー単位としてもお客様にご説明を聞いていただくチャンス、またアル添酒の魅力を再発見していただくチャンスなのではないかと思ったのです。

純米系にはその「ふくよかな風合い」を主軸とした純米系の良さ、アル添系にはアル添酒だからこそ出せる「味わいの軽やかさ」という良さがあると思います。そうした大きな方向性をベースとして、各商品のコンセプトである香味の実現を目指して、酒は製造されます。一本義は平成27酒造年度、タンク総数100本の酒を仕込み、そのうち純米系を70本、アル添系を30本造りました。10年前の一本義の仕込本数と比べると、ほぼ逆転しました。今でも日本酒構成比の8割を占めるアル添系ですが、昨今アル添系に対する風当たりは非常に強く、酒造会社が新たな商品として出すものは、純米系が多くなっています。市場の動向と将来性を考えれば純米系は益々伸びるでしょうし、アル添系は一部の経済酒を除いて落ち込んでいくと考えられます。アル添酒の魅力を再構築しないと、江戸由来、少なくともこの70年にわたって(2016年現在)培われてきたアル添技術も、その味わいも、いずれは消えてしまうかもしれません。それはすごくもったいないと思うのです。そこで、どうやってアル添酒の魅力を再構築できるか、一本義なりに考えてみました。

質的魅力を高めるためのアル添と、経済性を考えたアル添の二つがある日本酒ですが、いずれにしても原材料の“醸造アルコール”は国産とはいえ(※解説5)、その大元は諸外国で造られ 、しかもその多くは米ではなくサトウキビ由来。世界中で愛されている南欧のアル添酒は、主原料がブドウなら、添加するアルコールも同じくブドウ由来。この差は、日本酒へのアル添が質的魅力を高めるためであるといったところで、ご理解をいただくに困難なハードルになっているのではないかと考えました。そこで、日本酒の原材料が「国産米」であるならば、添加するアルコールも「国産米」から造ることで、はじめて「アル添」の効能についても興味を持っていただけるのではないかと思いました。

伝心シリーズは、考えついた知恵や技術をどんどん取り入れ 、挑戦をしていく酒として弊社では位置付けています。全量契約栽培酒米での酒仕込みに始まり、「越の雫」という奥越前で開発された新品種酒米の業界初の醸造と商品化、また同じく業界初の文字部切り抜きラベルなど、新しい発想の実現に意欲的に取り組んできました。幸いにして弊社は焼酎製造免許を取得しており、そこで「伝心 土 本醸造」に原材料として使用するアルコールを、自家製造した米焼酎を使用し、江戸由来の“柱焼酎仕込”にならったアル添をしてみようと考えました。

【解説5】醸造アルコールの原料(粗留アルコール)は輸入品ですが、国産のビールやウイスキー同様、原料は輸入でも主な加工を国内で行うため、最終製品として国産のアルコール製品となります。

自家製・醸造アルコール

伝心 土に自家製・醸造アルコールを

一本義は平成27酒造年度から、「伝心 土 本醸造」に添加する、醸造アルコールを自家製造する試みをスタートしました。その製造方法は本格焼酎を造るための単式蒸留機を使用して、米焼酎を造るのと同じ方法で造ります。まず最初に純米酒を醸造するのと同じように、米と水だけを原材料として醗酵させたモロミを造ります。このモロミをアルコール分45度を超えるように蒸留して、自家製の醸造アルコールを造ります。

酒税法の区分上、単式蒸留機で蒸留した場合、製成時アルコール度数が45度を超える場合は「醸造アルコール」、45度以下の場合は「焼酎 乙類」となります(実際のモロミへの添加時のアルコール度数は関係ありません。一般的には水を加えて30度ぐらいにしてから使います)。

「伝心 土」の製造規格は旧来より本醸造であり、酒税法の定めに従い本醸造規格に則って製造をしておりますが、その原材料に使う自家製の醸造アルコールの製成時度数を、45度を超える「醸造アルコール」として使用した場合は今まで通り本醸造であり、45度以下の「焼酎 乙類」として使用した場合は、特定名称酒以外の酒(いわゆる普通酒)となります。

そこで、いままでの製法区分を変えないこと、またラベルの原材料表示に「焼酎」が含まれていることをご覧になったお客様が、「伝心 土」は清酒なのか焼酎なのか混同されることを防ぐため、自家製アルコールは製成時アルコール度数を、45度を超えるように蒸留し、「醸造アルコール」として原材料に使用することにいたしました。それゆえ、ラベルの表示事項も今までと全く変わりはありません。また、この使用アルコールの変更による「伝心 土」への香味の変更は意図しておりませんので、蒸留して出来るアルコールがクセのないものに仕上がるよう「減圧蒸留(※解説6)」で行いました。

【解説6】蒸留には、蒸留機内の気圧を通常気圧で行う「常圧蒸留」と、わざと気圧を下げて行う「減圧蒸留」があります。減圧蒸留の場合、(標高の高い山の上と同じように)沸点が低くなるため、クセの無い香味を取り出すことができます。

上の写真に見えるのが、一本義が米焼酎を製造している「単式蒸留機」です。単式蒸留機は、焼酎乙類や泡盛をはじめ、ウイスキー、ブランデーなど蒸留を一回だけする蒸留酒製造で使われます。焼酎甲類やウオッカ、テキーラなどは、連続して蒸留することで高濃度アルコールを造る連続蒸留機を使います。

一本義の持っている小型の単式蒸留機では、1回当たりわずかな量しか蒸留できず、手間や時間はかかります。そして購入する醸造アルコールに比べて大幅にコストも上がりましたが、「伝心の原材料の全ては福井の自然です!」と、断言できるようになりました。

《 ご報告を申し上げます。 》

今回の「伝心 土」の原材料アルコールの変更は、昨今、アル添酒への評価が低減していることを踏まえ、アル添酒の質的魅力を改めて提言したい思いから、取り組みをいたしました。なお現在のところ、①蒸留できるアルコール量に限りがあること、②購入するピュアアルコール(連続式蒸留機でのアルコール)に比べて、自家蒸留アルコール(単式蒸留機でのアルコール)が、大吟醸など特に繊細な香味の酒に使用した場合に、かえって目標とした香味を確立できない可能性があること、③購入するアルコールに比べ 、自家製の醸造アルコールの製造原価が大幅に高価なこと、の3つを理由とし「伝心 土」およびその搾りたて新酒であります「伝心 冬」以外の弊社醸造のアル添系日本酒には使用しておりません。また現在のところ、「伝心 土」以外の商品への今後の使用予定もありません。大吟醸などへは、将来の取り組みを検討したいと思いますが、まだまだ研究をしていく必要があると思っております。

ご愛飲の皆様には「伝心 土」の原材料に使用するアルコールの変更に係る挑戦を、何卒ご理解賜りますよう、また今後とも変わらぬご愛飲を頂けますようどうか宜しくお願い申し上げます。

自家製醸造アルコール使用商品

伝心 土

奥越前を育む大地の力強さをキレ味に。江戸由来の柱仕込みにならった軽やかな風合い、こだわりの本醸造酒。

伝心 冬

爽やかな香りと上品な甘さの搾りたて生酒